「え?今日、傑君居ないの?」
「えぇ、何でもサッカーの合宿だそうよ」
冬休みを利用して親戚の家に来たところ同い年の従兄弟は不在のようだった
「じゃあ、何してれば良いんだよ〜」
「お小遣い上げるから適当に遊んでらっしゃい」
正直、良く知らない街で遊ぶのも躊躇われたが大人ばかりの空間にいるのも嫌だった
「…じゃあ、行ってくる」
***
「…やっぱりする事ないな…お金使う気も起きないし…」
商店街を散策したけど興味を引かれるものは特になかった
「…はぁ…つまらん…ん?…公園か…家に居るよりはマシか…」
公園には誰も居なかった…鉄棒の前で黄昏ている女の子以外は
「…何してるの?」
「え!うわぁ!」
慌てて女の子が振り向いた…歳は同じくらいかな…上という事はなさそうだ
「うぅ〜、驚かさないでよ〜」
「正直、こっちが驚いたぞ…驚くならもう少し静かに驚いてくれ」
「無理だよ〜」
「…で、何してるの?」
「え?」
「この鉄棒に何かあるの?」
見たところ普通の鉄棒のようだった
「ぐ〜、鉄棒を練習してたんだけど…上手くできなくて…うぅ〜」
女の子の顔が曇った…もう少しで雨が降りそうだ
「…教えようか?」
「え?」
「鉄棒は得意なんだ…他の事はあんまり得意じゃないけど…」
「本当?」
さっきの泣きそうな表情とはうって変わり笑顔になる
「うん」
「じゃあ、お願いするよ!」
***
「暗くなってきたね…」
「うん…今日はありがとう!」
結局、陽が落ちるまで女の子と鉄棒をやっていた
「いや、俺も色々と楽しかったよ…君が中々できなくて」
「ぐぅ〜。最後はちゃんとできるようになったもん」
「そうだね…」
「ボク、嬉しいんだ…今日、君と遊べて…今まで誰かと遊んだ事なんてなかったから」
「え…?学校の友達とか居ないの?」
「うん…学校あんまり行ってないから…実は鉄棒も今日が初めてだったんだ」
暗いので女の子の表情は分からないが口調は少し寂しそうだった
「…じゃあ、俺が友達1号って事かな?」
「え!友達になってくれるの?」
「なるっていうか、もう友達だろ?…俺は藤田陽太!…君は?」
「ボクは…ボクはさつき、杉田さつきだよ」
「じゃあ、もう暗いし…今日は帰ろうか?」
「うん…あの、えっと…陽太君…明日も…遊んでくれるかなぁ?」
「もちろん!俺たち友達だろ?じゃあ、明日もこの公園で」
「…きり」
「え?」
「…指きりしよ」
「そんなのしなくてもちゃんと来るよ」
それにちょっと恥ずかしい
「指きり…」
一雨来そうな声だった
「…分かった、指きりだ!…指切った!これで良いだろう?」
「うん…じゃあ、また明日」
表情は見えなかったけど、きっとさつきの顔は笑顔だったに違いない