思い出は桜の舞う中
淡い色に染まった坂道を二人で歩いた
目の前には大きな桜の樹
その向こう側には街が広がっていた
ここからなら世界の向こう側さえ見えるような気がした
遠くにいる彼の街もこの先に続いてる…そんな、気がした
見ている場所は違っても、この空は続いていく
…だから、寂しくない
私はここからいなくなるけど、この樹はここにいる
だから、守っていて欲しい「思い出」を…そして、待っていて欲しい「いつか出逢える日」まで…
「…行ってきます」
***
「さて…戻ってきたはいいけど…どうするの?」
北海道に行った後、俺と金子君は秋田にやってきた
「とりあえず、あの樹の方へ行こうかと思う…それと、藤沢君達が何か情報を集めてくれたみたいだから」
「あの樹…?あぁ、桜の樹ね」
***
「あ!藤田…それとマコピー!」
誰かが俺たちの名を呼んだ…と言ってもここにいる知り合いは限られているけど…
「久しぶり、鎌倉君…元気にしてた?」
「…マコピーはやめてくれ」
「とりあえず、元気だよ…そっちも元気そうだな、とりあえず」
「やっ!」
「やぁ、藤沢君…」
「こんにちわ」
「よし…早速だけど…本題に入るよ」
***
「…ドイツか…」
藤沢君たちが調べて結果、さつきはあの後父親の転勤に付き添う形でドイツに引っ越したらしい
ただ、ドイツといっても東があったり西があったり一枚岩ではないので
鎌倉君の友人に調べてもらったところ、一つの病院の患者リストに「杉田さつき」の名があったらしい
何故、その友人が患者リストを持っているのかとか疑問に感じるところはあるが彼女は今、ドイツにいるらしい
「とりあえず、行くことはできなくても手紙なり、電話で連絡を取ることはできるんじゃない?」
「っつても分かっているのは病院だろ?病院に届ければ取り次いでくれるのか?」
「何もしないよりは良いんじゃないか…?」
「…できれば、逢いたいんだ…逢って話をしたいんだ…」
「そうは言ってもなぁ…」
自分でも無理な事を言っているのは分かっていた、でもどうしても逢いたかった
「俺たちも叶えてやりたいけど…こればかりは…」
「不思議な力でドイツ行きとかできないのか?」
「…この「力」は物理的な事に関しては大したことできないんだ…」
何より最近は何故か「力」が弱まっている気がしていた
「ドイツねぇ…ん?何かあったような気が…!あ、これだ!」
鎌倉君が街全体に響くくらいのでかい声をあげた
「何よ?」
それに対し、藤沢君は何故か覚めた態度で答えた
「…今度のGW全国選抜大会の優勝賞品…何だか知ってるか?」
「いや、知らないけど…何だろ?スポッシュとか?」
「いや、タブクリアとかじゃないだろうか?」
「違います…なんと、ドイツへペア旅行券なんです!」
「…これまた、都合が良いというか…なんというか…」
「ん…でも、あれって秋季大会の結果で出場決めれてるでしょ?…俺ら出れないじゃん」
「確かに俺らは出れないけど、君らの友達は出れるだろ?俺の知り合いの友達も出るみたいだから頼んでみるよ」
確かに、黒木や中村君は出るみたいだけど、はたして優勝賞品を譲ってくれるのか…
しかも、大会は全国の猛者達、彼らでも勝てるかどうか…
「そんなに考え込むなよ、希望は出てきたんだから…とりあえず手紙でも書いてみたら?」
「…うん、そうだね…」
その後、俺たちは鎌倉君の家に泊まり夜通しGWをした
***
翌朝、俺はまたあの樹の前にいた
「力」によって花を咲かせたので周りの樹はもう、花をつけていないのにこの樹だけまだ、咲き続けていた
それはある意味、幻想的な光景だった
この樹の周りだけ、まるで穏やかな春のまま時間が止まってるようで…
(…でも、何もかも変わらずにはいられない…)
「…え?」
一瞬、誰かの声が聞こえた気がした
慌ててあたりを見渡しても、誰も居なかった
そういえば、こんな奇妙な光景にも関わらずこのあたりには人っ子一人いなかった
樹を見上げてみると…少し花が散り始めている気がした…