「はいよ…優勝賞品…」

これで、ドイツに…さつきに逢えるのか…

「ありがとう、中村君…それにみんな」

「礼は必要ないよ、別に賞品目当てでやってるわけじゃないし」

「そういうこと♪」

「…そうだね」

「優勝おめでとう、中村君!」

「え、と…大会関係者の方でしたっけ?」

「ふむ…常任委員の佐藤孝彦だ…見事な戦いぶりだった、まさかあの広轟氏を倒すとは…」

「いや、夢中でやっただけですよ…気付いたら、勝っていた…そんな感じです」

「え?おっさんの本名、孝彦っていうの?」

「そうらしいな…何で名前を隠していたのか…」

「君たち、食いつきすぎ」

「おーい、中村くーん!おめでとー!」

「中村さん…おめでとうございます」

…気が付けば、俺たち(正確には中村君の周りだけど)の周りにはたくさんの人が集まっていた

このかけがえのない時間を共有している仲間たちがいた

いくつもの偶然が重なり合って…俺たちは出会い、こうして今…ここにいる…

最近、こんな些細な事でさえ実は凄いことなんじゃないかと思えてきた…

なんでだろ?

「…それは、彼女を失ったという事実を知ったから」

え?

「喜びを感じるのは悲しみがあるから…楽しさは苦しみの後に…」

「えっと…相原さんだっけ?」

「何かを失って初めて気付くこと…もしかしたら、最初からなかった方が良かったのかもしれない…」

「う〜ん、話が少々難しいのですが…」

「でも、それも…失わなければ、気付かない…悲しいことだけど、人は…そうして生きていく」

「?、なんとなく分かったよ…うん、ありがとう」

「おーい、胴上げするぞー!藤田も来いよ!」

皆の輪の中心で中村君の身体が3回、宙を舞った

***

「これで、ドイツに行けるね!」

「うん…そういえばさっき相原さんにこんなこと言われてんだけど…」

俺はさっき言われた話を金子君に話してみた、もちろん全文覚えているわけもないので少々変わっていたかもしれないが

「…まぁ、なんだろ?人生楽あれば苦ありって事かな?」

「そういうことなんだろうけど…何か違う気もするんだよ…話し方からして、まぁ大したことじゃないんだけど」

「う〜ん、そうだ、Golden Windowsって話知ってる?」

「いや…何?金の窓?」

「昔話なんだけど…」

少年たちが庭で遊んでいると、夕暮れ時にいつも丘の向こうに金の窓を持つ宮殿が見えたんだ
それで、ある日その宮殿に向かっていくんだけど、丘は遠いし、結構道のりはハードだったんだ
それでも、丘を登りそこに辿り着くと…金の窓を持つ宮殿なんかなく、遺跡というか…廃墟があるだけ
当然、険しい道を越えてきた少年たちは相当落ち込んでしまった…
でも、いつまでもそこにいるわけにも行かなく、もう陽が傾きはじめているので帰ろうとしたんだ
そうしたら、その帰ろうと振り向いた先には金の窓を持った彼らの家があったって話

「ふ〜ん…それで?」

「灯台下暗しっていうのかな?幸せってすぐそこにあると思わない?」

「そうかもしれないけど…どうだろ?…ただ、そこに繋がるきっかけは小さな事の積み重ねなんだって最近思うんだ」

「小さな積み重ね…ね…そうだね」

「うん…そして、俺は今その小さな積み重ねの上にいると思うんだ…」

「そう…ただ、考えすぎも良くないよ…物事を難しく考えてもしょうがないしね!」

「そうだね…とにかく、後は彼女の元へ行くだけだ」