俺はまた、この街のこの場所に来ていた

全ての始まりの場所である、あの樹の下へ

理由はないのかもしれないけど、もう一度ここへ来なくてはならない気がした

この先にどんな未来が待っているのか分からないけど…

もしくは、今ここに来れば彼女に会える事を感じ取っていたからなのかもしれない…

「さつき?」

陽が沈む丘の上、俺はようやく探していた待ち人を見つけた

「さつき…」

もう一度、その名を呼ぶ

「陽太君…?」

「あぁ、そうだ」

「あれ?でも…何で?…ここは、あの丘?」

俺はすぐに感じた

「…さつき…」

この感覚は以前、俺が街で感じたもの

「そうか…夢、なんだよね?…もう、あえるはずないのに…」

夢…そうか、彼女にとっては夢なのかもしれない…そして、それは俺にとっても夢なのかもしれない

でも…

「さつき、もしこれが…夢だとしても、憶えていて欲しい…信じていて欲しい…必ず、会いに行くから!」

「…うん、だって約束したもんね…だから、陽太君は守ってくれるよ!」

「さつき…」

「…」

「え?」

彼女の口が微かに動いた

−サヨナラ−

「さつき!」

もう、彼女の姿はなかった

目の前にはあの桜の樹だけだった

「ん?」

良く見てみるとこの樹もやはり枯れ始めていた

「俺の力が弱っているからか?…それとも…」

「半分は正解…でも、ちょっと違う」

不意に後ろから声をかけられた

「えっと…相原さん?」

どうして彼女がここにいるのだろうか?

「もう、時間だから…」

「え?」

「…始まりがあれば終わりがある…ここはそういう世界だから」

あいかわらず彼女のいう事は抽象的で難しかった…だけど…

何年も、何十年もこの場所から見てきた、時代の中変わり続ける街を
楽しいことも悲しいこともたくさん見てきた
だけど、私は…変わらない…頭上の星空のように…
次の季節が来ても…それが一回りすれば…また、同じ
でも…
でも、そんな時彼女は願った「変わらない」ことを…
二人があの日のままでいることを願った
だから、私は…

「え〜と…なんとなく話は分かったけど…」

何もかも変わらずにはいられない…でも、だからこそ
この世界から見える景色は美しいものなんだと分かった

「そして…私は再び、樹に戻る」

ここは終わりのある世界だから

「…樹の根元に、彼女が願い私が守ってきた想い出のかけら…」

「思い出のかけら?」

「そう…」

「…ありがとう…」

「?」

「今まで、ありがとう…」

俺は彼女の手を両手で握った

強く、強く

季節外れの桜吹雪の中で

「…」

最期に見せたその笑顔は俺が初めて見た彼女の笑顔だった

***

「…本当にあるの?」

「いや、どうだろ…多分あると思うんだけど…」

「根元って言ってもこの樹、大きいですよ」

「樹齢百年くらいありそうだよね?」

俺は一緒に来ていた金子君と地元の鎌倉君を呼んで穴を掘っていた

彼女の言っていた「想い出のかけら」を見つけるために

「でも、湘も薄情だよな…女と友情どっちが大事なんだ?」

「…普通、前者じゃない?」

「…そうだね、俺もそうするわ…湘の立場なら」

「ダウジングとかできないの?」

「もう、無理だね…」

彼女が樹に戻った時、俺の力も消えていた

以前感じていたような感覚、全てを失っていた

きっと俺の力はこの樹によるものだったのだろう

「そうだな…せめて最後は自分の力で」

最後まで「彼女」に頼るのも悪いだろう

「…ん?何か手ごたえが……あったー!」

思わず叫んでしまった

「まじ?どれどれ?」

「ふぁー、良かった良かった…君以外が見つけたらちょっと空気悪いよね?」

「これ、だな…」

想い出のかけら…それは小さな箱だった

「中に何が入ってるんだろ?」

「マトリョーシカみたいにまた、箱でも入ってるんじゃない?」

その箱の中には…