キンッ!
鋭い金属音が響き
打球がバックスクリーン方向に向かって伸びていく
点差は1点、抜ければ3塁ランナーが還り同点、2塁ランナーが還ってくればサヨナラ…
しかし、中堅主は後退を止め、捕球体制に入った
捕られれば3アウト、そこで試合終了だ
ボールがグローブの中に吸い込まれていく…
(勝った…)
フィールド上の野手全員がそう思った瞬間だった
…ぽろっ…
手の中にあるはずの感覚がない
一瞬、何が起こったか分からなかった
そして、全てを理解した瞬間にはもう、遅かった
足元に転がるボールの先でサヨナラのランナーがホームを踏んでいた…

「岩本、高校はどうするんだ?野球は続けるのか?」
中学校生活最後の大会を終えた日の帰り道、正田は尋ねた
「う〜ん、まだこれといっては…野球も…続けるかなぁ〜?」
「そうか…俺は煌瞬戴高校の野球部に入ろうかと思うんだけどお前もどうだ?」
「俺の頭じゃ無理だな…それに強豪校で野球を続けようとは思わないし」
「…森本はどうするんだ…?」
正田は二人の1歩先を行く森本に声をかけた
「ごめん、今は何も考えられない…」
サヨナラのエラーを喫してしまった彼は試合後、部内で一番沈んでいた
「そんなに気にするなよ…エラーは誰だってするし…な?」
「まぁ、運みたいなもんだよ…うちの部がここまで来れたのも運みたいなもんだし」
確かに自分たちの部がここまで勝ち上がってこれるとは思ってもいなかった
しかし、ここまで勝ってこれたのは運などではなく実力だと思っている
そして、その実力は他でもない、チームの主力のこの2人であることは誰もが分かっている
守備の要、エース正田と攻撃の要、4番岩本
この2人がいたからこそ自分たちはここまでこれた
だから、森本は余計に責任を感じていた
「…本当にごめん…じゃあ」
そう言って森本は走っていた
こうしていつも励ましてくれる二人
彼らがいたからこそ自分は3年間部活を続けることができた
負けたことよりも、そんな彼らに対して何もできない自分が情けなかった
***
「なんだかんだ言って、結局野球強いところ選んだじゃないか?」
「いや…なんつーか…別に野球部入るつもりはないんだけど…」
「そうか…まっ、その方が俺は甲子園に行きやすくなるけどな」
「どうだかな…おっ?おーい、森本ー!」
岩本は卒業式の輪から少し離れたところにいる森本に向かって声をかけた
「あぁ、岩本…正田…卒業おめでとう…じゃあな」
そういって逃げるようにして人ごみの中を駆けて行った
「卒業おめでとうって…在校生か?あいつは?」
「突っ込むところ違うだろ…何か、あの日以降いつもあんなんだよな…」
「…後輩っぽいところ?」
「じゃなくて…いつも下向いてるし、何か野球部員に対してよそよそしいし…」
「たしかにそうかもな…あ、卒業おめでとうって言い返すの忘れてた」
「別に良いだろ…そういえば、同じ高校じゃなかったか?」
「あぁ、そうだな…ただあいつは特進クラスだけど」
「そうだよな…じゃあ、お前は話す機会はあるか…」
「そうか、その時に言えば良いのか、卒業おめでとうって」
「…とにかく、頼んだぞ、あいつの事」
「あぁ、お前の分もおめでとうって言うからな…」
***
高校では野球部に入らず軟式野球同好会に入った
だから、毎日練習していたあの頃に比べると時間が余った
そんなある日、森本がおもちゃ屋でガンダムのカードゲームをやっているのを見た
相変わらず、声をかけ辛い雰囲気なので声をかけれなかったが…
数日後、クラスメートの田中の友達が同じゲームをやっていたので
俺もはじめてみる事にした
これなら持て余している暇を有効活用できると思った…
そして、あいつにあの言葉をいえるようになるとも思った
「卒業、おめでとう」と…