番外編4話「フルスイング」

一死満塁のチャンス

一打出れば同点、もしくは逆転できるというこの状況

そんな重要な場面で打席が回ってくるなんて…

バッティングに自信がないわけではない

でも、長いことバットを振っていなかった人間にこの場面は厳しい

だが、ピンチの場面こそチャンスなのではないだろうか?

いや、普通に考えればチャンスだ…だって満塁だし

GWで言えば自分の場は整ったという所だろうか

コンボデッキでコンボが決まる瞬間のように

プレイミスさえしなければ大丈夫

落ち着いて考えるんだ

そうすれば…勝てる!


「なぁ、岩本…彼はバッティングってどうなんだ?」

「ん、森本の打撃…?悪くはなかったけど、チャンスには弱かったな」

「チャンスに弱いって…だめじゃん」

「いや、奴の顔つきが変わった…これはいけるかもしれないぞ」


なぜ満塁になったのか…

思い返せば、この回の最初に岩本がヒットを打ってから突然、相手ピッチャーが崩れたからだ

では、なぜピッチングが悪くなったのか?

完全試合を潰されたからか?

それもないわけではないだろうけど、もっと決定的なもの…

ランナーが出た事により、セットポジションに変わったからではないだろうか?

だとすれば打てないことはないはず

相手の行動を良く見て、考えればおのずと分かってくることもある

特にランナーを背負ってからは彼は得意のスライダーを投げていない

これはコントロールがつかないという理由と変化が大きいため捕手が後ろに逸らす危険があるからだ

また、井場君の打席ではストライクをとれたのはストレートだけだ

そう考えるとこの場面…もう、四球を出すことは許されないだろうし

9番バッター相手だ、開き直ってストレートで勝負に来るだろう

とにかく、初級はストライクが欲しいはずだ

ならば、俺はそれを打つ!


「いや〜、今日は本当にありがとうな」

試合後のベンチ、岩本に声をかけられた

「ほんと、ほんと。今日は森本君のおかげで勝てたよ」

「今度も助っ人に来てくれよ、次はもっと上の打順で」

岩本以外の…今日、初対面のメンバーも嬉しそうに肩を叩いてくる

そこまで歓迎されるとこちらも照れてしまう

「むしろ、入会するか?」

「…考えとくよ」

久しぶりに野球をやったけど…たまにはこういうのも良いのかもしれない

「そうか…あ、お前に言いたいことがあったんだよ」

岩本がらしくない真面目な顔をした

「なんだ?」

「卒業おめでとう!」

卒業?

そうか、確かに卒業なのかもしれない

過去の自分からの卒業…何となくかっこよくはないだろうか?

「…お前は相変わらずおめでたいやつだな」

「そうか?…まぁ、いいやこの後暇か?GWしに行こうぜ」

「俺は疲れたけど…まっ、良いか。完膚なきまでに叩きのめしてやる」

「はは、それでこそ森本だ…とりあえず着替えようぜ」

「あ、スコア忘れてるぜ」

ベンチの下に一冊のノートが落ちていた

「本当だ、危ない危ない」

そのノートを少しめくってみる

そこには俺の逆転打の記録がはっきりと残っていた…