今日、生まれて初めて女の子に告白された

それまで彼女いない暦=年齢だった俺がだ

当然、色々な可能性を考えてしまった

新手の詐欺なのではないか、洗剤でも買わされるのではないかと…

そして、アレコレ考えていると一つの事実に気が付いてしまった

今日が4月1日、エイプリルフールだという事に…


告白されたのは以前から仲の良かった同級生

こういう冗談を言うタイプかどうかと聞かれると正直、返答に困る

どちらかと言えば清純そうな雰囲気の娘だが、きつい冗談を言い合える仲でもあった

悩んでいる暇があるのなら、嘘かどうか聞き返せば良いのだが

何より、突然の告白だったために「えっと…ごめん、ちょっと考えさせて」と言ってしまった時点で

もう、あれが本当かどうか聞き返すのは難しいだろう

むしろ、どう考えてもこちらが冗談として受け取っているとは思わないだろう…

今頃彼女は家で返事を待っているのか、腹を抱えて笑っているのか…

そもそも、4月1日だからといって人をかつごうとする人は実際、多いのだろうか

生まれてこのかた、4月1日に人にかつがれた記憶はほとんどない

この日にある記憶と言えば「あ、明日俺の誕生日だ」「マジ?今日がエイプリルフールだからとかじゃなくて?」

と言う不毛な会話ならほぼ毎年行っているので覚えてはいるが

考えても仕方がないので、実際に人をかついでみるのも良いかもしれない

そう思ったので、俺は手元にあった携帯電話を操作した

「…もしもし?」

数回のコールの後、ややノイズの混じった声が電話口から聞こえてきた

「よぉ、元気してた?ところで、相談があるんだけど…」

「お前がメールじゃなくて電話なんて珍しいな…で、相談って?」

電話の相手はさきほどの誕生日トークをを『去年』した人間だ

「実は…」

気分を出すために少々間を置く

賞金が出るクイズ番組で司会者が無駄に引っ張って、ついでにCMを挿れるのと同じ手法だ

「実は?」

「ロトが当たっちまった…」

「え、マジで?」

もちろん嘘

「うん、30万くらいなんだけど…とりあえずいくらかは貯金して、残りは使おうと思うんだけど…」

「どれくらい、使うんだ?」

「半分くらいかな…何に使ったら良いと思う?株とかは良く分からないし」

「15万か…スクーターなら買えるけど結構、維持費がかかるしな…」

免許持ってないし…そもそもスクーターの必要性も感じていないのだが

「ドーム球場借りて草野球ってのも面白いけど、人数が揃わないか」

それ以前に野球の経験がない

「うーん、どうしよっか…あ、そうだ良いものがあるぞ」

「何?」

「この前、知り合いから安く譲って貰った浄水器があるんだけど、買わない?」

「はぁ?」

「いや、これが水道につけるだけで何かマイナスイオンやらα波が出たりγ線が出たりするとか」

待て、最後のは放射線だぞ

「とにかく凄い良いものだから、それでお前にも安く譲るからさ、それをまた売ればお前も儲かるぞ」

何か話がどんどん胡散臭い方向に進んでいる気がする

「俺が譲ってもらった人なんか学生なのに、これで月に100万以上稼いでるらしいからな」

これは、アレだよな…

「お前も頑張ればその人みたいに幹部になれるからさ…そうするともうウハウハらしいよ」

「なぁ、悪いこと言わないから…それ、やめた方が良いぞ?」

「何でだよ」

「いいから、消費者センターに問い合わせろ…それはマルチ商法って言うんだ」

「あぁ、何かそういうんじゃないってその人言ってたけど…クーリングオフがどうとかで」

「それが常套句なんだよ、悪いこと言わないから…そのままだとお前、友達とか失くしてしまうぞ」

「なんだよ、お前こそ俺の事信用してないじゃないか、そんなヤツこっちから願い下げだね」

そうヤツは強く言い捨てると通話を切ってしまった

「あいつがあんなのにはまってたなんて…知らなかったな」

テレビなどではたまに取り上げているけど、こんな身近なところにも魔の手が伸びていたなんて…

そんな風に俺が落ち込んでいるのを分かっているのか、彼から携帯にメールが来た

「…何だろ」

携帯のディスプレイを開け、本文を表示する

『エイプリルフールって楽しいな(笑)』

本文には短くそう記されていた

「…結局、エイプリルフールって嘘をつく日なのか?」

馬鹿な友人(と自分)のせいで余計に分からなくなってきてしまった…

俺は彼女に何と返事をすれば良いのだろうか


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