結局、返事をどうすれば良いか分からず、気分転換のため外に散歩に出た

3月下旬で咲き始めた桜は既に散り始めていた

そんな桜並木を抜けて、俺は地元の商店街へとやってきた

夕方のため、買い物客の姿が多く見られた

「おう、秋坊じゃねぇか」

振り返ると知り合いのパン屋のおっさんが横に居た

「ちわっす」

「そうそう、知ってるか?埼玉県が独立するってよ、さっきニュースでやっててびっくりしたわ」

「とりあえず、何で埼玉県なんですか?」

「昨日、エイプリルフールのネタを考えようとネットで検索したらそんなのがあったんだよ」

ネットで調べてまでネタを考える人もいるのか…

まぁ、この人の場合、年中エイプリルフールだからな…

「…何か悩みでもあるのか?」

「ありそうに見えますか?」

他人から見ると悩んでいるように見えるのだろうか

「いや、きっと俺の思い過ごしだ…まぁ、今日はエイプリルフールだ、たくさん嘘ついてストレス発散しろよ」

そんなストレス発散法はしたくない

「そうっすね…適当にからかってきますわ」

特に買い物などせず、俺は商店街を後にした


「あ、おかえり」

家に戻ると朝から居なかったはずの母が家に戻っていた

「そうそう、誕生日おめでとう、いくつになったんだっけ?」

「それは『今日は4月2日だよ』って嘘なのか、『実は4月1日に生まれたの』って嘘なのかリアルにボケているのかどれなんだ?」

皆、今年に限ってやたら俺をかつごうとしてくるのは何故なんだ

「自分のお腹痛めて生んだ子の誕生日間違えるわけないでしょ、今日は4月2日よって言いたかったのよ」

「じゃあ、せめて息子の年齢ぐらい覚えていてくれ」

それだけ言い残して俺は部屋へと戻った

部屋にいても特にすることもないので、パソコンの電源をいれインターネットにアクセスした

日ごろからチェックしているサイトが突然『閉鎖します』と書いてあったが

下の方を見ると「今日はエイプリルフールです」と書いてあった

「…はぁ」

結局、ネットをみるのも何か気分が乗らなくなったのですぐに電源を落とし、そのままベッドにダイブした

「どうしよっかな…」

悩んでいるうちに俺の頭も省エネモードへ移行し、やがて電源が切れた


「ふぁわ」

目を開けるとそこは暗闇だった

手元にあるはずの携帯を操作し、時間を確認すると今日も残すところあと数分となっていた

結局あのまま寝てしまい、更に誰も起こしてくれなかったらしい

きっと、親に文句を言えば

『エイプリルフールだから嘘寝かと思ったー』とか言われるのだろう

そんな嘘ばっかりの日もあと数分で終わる

むしろ、そんなことより彼女への返事が問題だ

実際、俺は彼女のことが気になっている

だからといってマジに返事をしてギャグでしたなんてのは洒落にならない

多分、今日という日が終われば

『ごめん、昨日の話は嘘だったの』なんてメールが来るのだろう

昼間のアイツのマルチ商法の話のと同じように…

でも、そうでなかったらどうなるのだろう

俺はどうしたいのだろう

『今日はエイプリルフールだ、たくさん嘘ついてストレス発散しろよ』

おっさんの言葉が頭に浮かんできた

「そうだな…今日はエイプリルフールなんだし」

手元にあった携帯の番号を押す

「いざとなったら、こっちも嘘でしたって言えば良いんだ…」

そのためには電話の相手が今日中に出てくれる事が必要だった

「はい」

3回のコールで通話口から声が聞こえた

「もしもし?夜遅くにごめんね、今朝の話しの返事をしたいんだけど…」

「うん」

「俺も、君の事が好きだから…だから、俺と付き合ってください」

以外にすんなりと言えた…でも、問題はここからだ

「よかった…」

聞こえてくるのは安堵の声

「いつか言おうと思ってたんだけど、秋君の誕生日に間に合うようにって…でも勇気が出なくて…」

「…」

「今日なら、振られてもエイプリルフールだからってごまかせれるかなってそう思って…告白したの」

「そうなんだ」

部屋においてある時計を確認すると既に12時を回っていた、そういえば携帯の時計は時間が遅れていた

という事は、もう彼女の言葉が嘘であるという可能性はないという事だ

そして、俺ははじめから嘘はつけなかったってことか…


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