最初に乗り換えたターミナル駅へと戻ってきた

家へはこの駅からまた別の私鉄に乗って帰る事になる

彼女が無事、家にまで帰れるか多少心配ではある

だが、きっと「もう、大丈夫」だろう

彼女の表情には出会ったときのような不安そうな表情は見えない

「この花…卒業式の後に後輩がくれたんです」

出会ったときからずっと手にしている花束を指して言った

「こんな私でも慕ってくれる人がいる、とても嬉しかったです」

そう言って本当に嬉しそうに笑顔になった

「だから、その事を先生に伝えたかったんです…もう、私は大丈夫ですって」

そう言って彼女が手にしていた花束から一本を差し出した

「感謝の気持ちです…こんなものしかありませんが」

たしか、その花は秋にしか手に入らないので大切にして下さいと後輩に言われたと言っていたものだったと思う

「いいの?俺なんかがもらっても」

「はい、駅員さんが居てくれたから、私は先生に大丈夫ですって言えたんです…だから」

普通の花束だが、彼女にとっては特別な意味のあるもの

それを他人の俺なんかに、例え一部であったとしても…

「…ちょっと待ってね」

確か、改札の近くにあったはず…

俺は急いでその店へ入るとすぐにそれを購入し、彼女の元へ戻った

「あの、これは…?」

今買ってきた花を差し出す

束でもなんでもない一本の花…

「えっと、卒業祝いかな」

別に卒業祝いでもなんでも良かった

これは彼女への感謝の気持ち

何に対しての感謝かは自分でも良くわからない

でも、大事な事を教えて…思い出させてくれた事へのかもしれない

「ありがとうございます」

彼女はその花を受け取って自分の花束へといれた

その花だけ、他のより明るい色で目立っていたが逆に良い感じにアクセントになってるとも言えなくもない

そして、俺達は別々の場所へと別れていった


流されていく毎日

止める事はできないかもしれないけど

少しは抗うことはできるのかもしれない

最近は以前なら赤でも渡ってしまう信号も青になるまで待ってみる

周りはそれでも進んでいくけど

自分一人取り残されてしまうような気もするけど

でも、そんなに急ぐ必要はないのだろう

玄関前に飾ってある花を見る度、そんな気分になる

もう、彼女には会うことはないかもしれないし、もしかしたらどこかで偶然すれ違うかもしれない

その時に気がつくかどうか分からない…

けど、今の俺なら気がつくかもしれない

以前のように俯きぎみに早足で歩いていたら気がつかないかもしれない

だけれど、ゆっくりと歩いて行けば、そんな微かな偶然だって見逃さないかもしれない…

玄関に活けてある花を見ると、不思議とそんな気分になるのだった


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