彼女のどこが良いかと訊かれれば
優しいところとか、よく見ると可愛いだとか適当に答えている
訊いてくる人間もそういった解答で納得していく…いや、せざるおえない
よく見れば可愛いと言われてもよく見たこともないだろうし、今後見ることもないだろう
ならば、よく見ているであろう僕がそう言えば、うなずくしかない
優しいといっても同じだ、彼女が特別優しいと感じている者はいないだろう…僕もそうは感じていない
実際のところ、僕が彼女と付き合った理由は…彼女が笑わないから、それだけである
今日も教室の中、彼女は笑わないでいる
だからといってクラスで浮いているかといえばそうでもない
休み時間は一人でいるときもあるようだが級友と話している時もある
昼休みも屋上で一人パンをかじることもあれば、数人に連れられ食堂に行くこともある
そういえば、彼女に最初に会ったのも昼休みの屋上だった
天気の良い日だったので屋上に出てみようと扉を開けたら彼女が空を見上げていた…なぜか、シャボン玉をしながら
そして次の日、僕は彼女を屋上へ呼び出し、交際を申し込んだ
彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻ると、一言「いいよ」と答えた
小銭を友人に貸すときのような軽い言葉だった
とにかく感情を表に出さない
かといって無愛想だとか無表情と言うのとは少し違う
感情の波が小さいというか表情の変化が微細なのだ
同世代の女性の笑顔は好きになれない
何か無理して笑っている、そんなものを表情の奥に感じてしまうから
その点、彼女は決して無理には笑おうとはしない
興味がある話なら少し楽しげに、つまらなければそういった表情をする
相手に合わせて笑おうとはしない
そんな彼女が僕は好きだった
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