「何?話って」

数日振りの彼女との会話

無言で彼女にシャボン玉セットを差し出す

この間、購入した時に実は2セット購入しておいた

「…言われた通り、自分で考えてきた」

昨日、家で作ってきた「それ」を彼女に見せる

「何これ?」

予想通り、その数の多さに心なしか呆れ気味に呟いた

「考えてきたんだけど…結局、どれなのか分からなかった」

持ってきたフィルムケースには様々なラベルが貼られている

昨日、インターネットを使って調べたところ、シャボン玉の膜を丈夫にする手っ取り早い方法はその材料にある事が分かった

砂糖やのり、ハチミツなどをいれるだけでも随分、膜が丈夫になるそうだ

僕はそれらのサイトを見ながら様々な石鹸水を作った

作ったところまでは良いが、作るのに夢中でどれが一番高く飛ぶのかどうか試す時間がなかった

だから作ったのを今日、全て持ってきた

「…それで?」

先ほどまで呆れ気味だった表情は微かにだが、嬉しそうなものに変わった…本当に微妙にだけれど

「君と一緒に居て楽しいかどうかなんてのは考えるまでもなく楽しかった…君はどうか分からないけど」

彼女は無言でこちらを見ていた

「でも、そう言ったら多分、君はこう言ったはずだ…自分の事を好きか、自分の何処が好きなのか」

「そうね」

「ぶっちゃけ、その答えは分からなかった…だけど気付いた、昨日の昼休みに」

最後の昼休みと言うのは余計だったけど構わず続けた

「君の笑顔が見たいから、あの笑顔を見たいから僕は君一緒に居たいんだと思う」

彼女が笑わないから好きなんていうのとは全く逆…僕は彼女の笑顔が好きだったのだ

「…昨日の昼休みまで気付いていなかったの、私と昔遊んでいたこと」

先ほど嬉しそうな表情をしたかと思ったが、また呆れたような顔に戻っていた

「うん、忘れてた…昨日、そうじゃないかと思って、それで和也に確かめて…」

「…私はずっと、覚えてたよ」

そう言って、彼女は僕に自分の体重を預けてきた

「うん…ごめん」

そこにある存在を確かめるように、僕は彼女を抱きしめた


「実はいつも少し、罪悪感を感じてたの」

いつものように二人きりで過ごす放課後

でも、今日は街ではなく、二人肩を並べて屋上でシャボン玉をしていた

「何で」

「だって、あなたは普通の石鹸水を使ってたのに、私は液を変えてたから…」

「気付かなかった僕が悪いんじゃないの、そういう場合」

フゥーと息を吹き込むと勢いよくシャボン玉が飛び出した

夕日を浴びたシャボン玉はキラキラと輝いて、きれいだった

「そう思ってたんだけど、引越ししてから、もの凄く後悔したの」

「そう…」

彼女も彼女なりに悩んでいたらしい

「それで、もう嘘をつくのはやめようって思って…だから、愛想笑いとか苦手になって」

ちょっと待て、彼女が笑わなくなったのは僕が原因のようじゃないか…

これは僕が彼女の笑顔をみたいとかそういうレベルでなく色々な意味で責任が重大なんじゃないだろうか

そう思ったら、もしかしたらただそうしたかっただけかもしれないけれど、僕は彼女を抱き寄せた

放課後の屋上には一つになった影と、夜空に瞬く星のようなシャボン玉が無数に輝いていた


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