「ねぇ、藤沢君?」

放課後、私は彼の横に並び学校前の坂を歩いてた

週に一度、部活がない日はこうして彼と一緒に帰っていた

「何、山百合さん」

フジサワ君にヤマユリさん、二人の呼び方はずっと変わらなかった

変えようかと思ったことも、実を言えばあった

ただ、タイミングが分からなかった

少し、照れくさかった

そして、勇気が足りなかった…

「あのね、その…名前で呼んでも良い?」

でも、今日はちゃんと言えた

「え?」

別にタイミングが良かったわけでもない

「それと…」

口に出してみるとやっぱり恥ずかしかった

「それとね、私の事も名前で呼んでくれる?…神奈って」

でも、背中を押してくれる人たちがいる

それだけで十分だった

「うん、分かった…神奈」

そう言った彼の顔は少し赤くなっていた

そんな彼を見て少し悪戯してみたくなった

これも、きっと友人達の影響だろう

彼の手をギュッと握ってみる

すると更に顔の赤みが増してきた

「…えっと、どうしたの?ヤマ」

彼が苗字で呼びそうだったので、私はそれを遮るように言った

「『ヤマユリさん』じゃなくて、神奈…ね、湘君?」


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