結局、彼女に付き合って勤務先の駅からJRに乗ってこのターミナル駅に来た

複数の路線が乗り入れるこの駅は中途半端な時間にもかかわらず人が多かった

別に頼まれたわけでもないし、仕事は終わっている

自分でも何でこんなめんどくさい事をしているのかは良く分からない

「東京の方って歩くの速いですね」

そう感想を漏らす彼女の足取りはゆっくりだった

加えてこういった人ごみの中を歩くのに慣れていないからだろう、全然前に進めていなかった

「そうだね…」

言われてみるといつも自分も早足で歩いている事に気付く

別に急ぎの用事があるわけでもないのに…

「わぁ、東京ってアルバイトのお金も高いんですね…やっぱり都会だからかなぁ」

構内に貼ってある求人票を見て彼女が感想を述べた

彼女は見るもの全てが新鮮に見えるようだ、きっと地元から遠出をしたことがあまりないのだろう

「そっか、皆さん忙しいから早足だし、お給料も高いんですね」

どうやら納得する答えが出たようだ

でも皆が皆、忙しいわけではない

俺だって忙しかったら見ず知らずの女子高生に付き合っていない

仕事も終わり、特に用事もないから付き合っている

普段していないのだから、少しぐらい小さな親切ってやつをしてみても良いはずだ

多分、自分がここにいる理由はそういうことなんだと思った


そして、改札を出て私鉄へと乗り換えた

彼女はここまでJRのフリー切符を使ってきたようだ

ただ、ここからは私鉄なのでもう、その切符は使えない

田舎とこっちで券売機がそこまで変わるとは思えないが彼女はえらく手間取っていた…付いてきて正解だったかもしれない

ホームで電車を待っている間も彼女は瞳を輝かせいていた

快速や急行といった種別の多さに驚き、電車の本数がこんなに多いなら、遅刻はしませんねとも言っていた

何もかも、彼女が住んでいる田舎とは違う世界

驚きや発見もあるかもしれない

でも、恐れや不安もあるはずだ

なぜ、彼女はここまで来たのだろう

そう言えば、理由はしらない

それに、いくら駅で働いていたとはいえ知らない男と一緒で不安はないのだろうか

そして、同じように見知らぬこの子をなぜ俺は助けようと思ったのだろう

いつもなら、こんなめんどくさいことはしていないはずだ

先ほど調べた最寄駅と行き方を案内して俺の仕事は終わりのはずだった

彼女が無事につけたかどうかなんて気にせず、今ごろは昼食を摂っているはずだった

それで、家に着いてシャワーでも浴びた後、すぐに眠りに着くのだろう

それが自分の日常だったはずだ

時間がないと言いながら無為の時間を過ごす日々…

それが俺の毎日だったはずだ

なのに、なぜ俺は今こうして家とは違う方向の快速電車に乗ろうとしているのか

なぜ、俺は彼女の横を歩いているのだろうか…


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