その日も、僕はあの子に挑戦していた

一緒にやっていた連中はもういない

シャボン玉のブームは去り、今最も熱い遊びは紙飛行機になっていた

それでも、その日まで僕はあの子とシャボン玉をしていた

第何十回戦かは分からなくなったが、僕の勝数は相変わらず0だった

少なくともパリーグの某球団の連敗記録はとうの昔に更新していた

だから、というわけではないと思う

もしかしたら、紙飛行機の方に専念したいと思っていたのかもしれない

僕は、そこでもう挑戦する事を止めた…


彼女と一緒ではない放課後を過ごして何日か経っていた

あの時こそ、「離れようか?」と疑問形だったけど、実際にはあの日以来会話をしていない

良くあることかもしれないけど離れてみて、自分の生活の中でどれだけ彼女が大きいかが分かった

それでも、彼女に言うべき言葉が見つからなかった

これからどうするべきか分からなかった

そして、答えが出ないまま…今日まで至る

夜はよく眠れないけど、授業中は良く寝れるという日が続いてた

ひたすら教師が板書と朗読を繰り返す現国の時間は格好のスリープタイムだった

黒板の音は優しい子守唄となりとなり…開始早々、僕は意識を持っていかれた


「参ったよ…君には勝てないや」

両手を挙げて一応、降参のようなポーズをしてみる

「私に挑戦するなんて、百億万年早いのよ」

女の子は相変わらずの笑顔だった

「うん…だから、やり方教えてよ」

もう、あの子には敵わないしシャボン玉も当分やることもないだろう

だったらせめて最後なんだから種明かしぐらいして欲しい

「えー、やり方教えたら勝負にならないじゃん」

「うん、もう勝負は終わり、君の勝ちって事で…だから教えて」

するとさっきまで笑顔だった彼女の顔から笑みが消えた

「…どういう事?」

「だから、シャボン玉は今日で終わりにしよ、もうみんなやっていないし」

他の皆は紙飛行機に熱中していた

僕も最長時間なら優勝できるかもしれないのでそろそろ、本腰をいれたかった

「それで、最後なんだし…やり方教えてよ」

「…ない」

俯きながら言った彼女の言葉は震えていた

「え?」

「絶対教えない、それぐらい自分でどうにかしなさいよ」

そう捨て台詞を残して走り去っていった

僕はその後姿を眺めることしかできなかった

数日後、比喩でも何でもなくその子は僕の前からいなくなってしまった

引越しをしてしまったのだ

その数日後、僕は紙飛行機の最長時間記録ホルダーになった

多分、何かで一番になったのもこれが最初で最後だった気がする

でも、全然嬉しくはなかった

その時、気付いた…別に僕は彼女に勝ちたかったわけではないという事を

そして、僕の初恋が終わったことを…


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