さすがにこの時間まで教室に残っているクラスメートはなく

卯月が将棋部のところへ行ったので教室には私と彼の二人きりだった

彼と二人きりというのはあまり経験がなかったので、何を話しかければ良いか分からなかった

それは彼も同じらしくさっきから無言のまま携帯電話のディスプレイを見ている

考えてみると、彼の電話番号も知らなければメールマドレスも知らなかった

「そういえば、番号しらないんだけど教えてくれる?」

別に知りたかったわけではないが一応、同じ集団に属しているので聞いてみた

この沈黙が気になったというのもある

「…出席番号?」

あまり面白くない冗談が返ってきた

「携帯の番号…出席番号は12でしょ」

「携帯ね…はいはい」

そう言って画面に番号を表示させ私の方に向けた

それを見て自分の携帯に入力をはじめる

携帯で文字を打つのは得意ではない

彼に私のを教えた方が速かったかもしれない

赤外線でもデータが交換できるらしいけど、使い方は知らない

あまり、携帯電話というものに興味はなかった

この携帯も高校に入学したときに購入したものでそれ以来変えていない

卯月は中学の頃から所持していたが私の知る限り四回ほど機種を変更している

彼も私と同じタイプなのか少し前のモデルだった

「メール送るね」

入力を終え、そう告げる

私が送信するとすぐに彼の携帯が振動した

「ん、サンキュー」

彼はメールを確認すると軽く笑った

「どうかした?」

「いや、アドレスが分かりやすいと思って」

そうだろうか?

そう疑問に思い、彼のアドレスを見てみる

…意味の分からない英単語と思われるもので構成されていた

私のアドレスもそうだが、卯月のアドレスも単純なものだった

他の娘にしても好きなアーティストだとかそんなのだ

もしかしたら、彼のアドレスもそんな大層な意味はないのかもしれないけれど

第一、アドレスを複雑にしたところで何かメリットがあるわけでもない

そう言ったら

「複雑な方が迷惑メールは来ない」

と返された

そうだとしても、所詮アドレスなんてものは記号に過ぎないと思う

それは自分の名前にしても同じだ

記号は決して内面を表すものではない、そこに他人の願いがあったとしても

「ところでさ…」

彼が何やら神妙な面持ちで口を開いた

「あいつ一人でやって大丈夫なのか?」

…行かしといてなんだが、大丈夫じゃないかもしれない


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