「ねぇねぇ、神奈ちん昼ごはん一緒に食べよ」

ある日の昼休み、いつものように彼女を昼食に誘う

「そう言えば、いつのまにか神奈ちんって呼称になってるわね」

そして誘ってもいないのに勝手に居座っている友人

「別に良いじゃない…ねぇ?」

私としては別に良いと思うんだけど本人に拒否された場合は考えなければならない

「うん、構わないけど」

どうやら杞憂にすぎなかったようだ

「ありがと、その代わり私の事も卯月で良いから」

「うん、そうするね」

「でも『ちん』ってのはどうかと私は思うんだけど」

本人が良いと言っているのに美咲は不満のようだ

「じゃあ、何なら良いのよ」

「そうね…神奈っちとか可愛いと思わない?」

神奈っち…なんか玩具メーカーでそんなのがあった気がした

「じゃあそう呼べば?そのかわりあなたも美咲っちとなるのよ?」

「何でそうなるかな」

「ね、神奈ちん」

「そうね、それで良いかな…美咲っち?」

「構いませんよ、神奈っち」

どうやら開き直ったようだ

むしろ、神奈ちんが乗ってくれたがちょっと意外だった

でも、それは以前までの彼女のイメージであって

親しくしていると以外に普通の女の子だった

メールしてれば深夜まで下らない話に付き合ってくれるし

逆に電話が掛かってくれば電話代を心配したくなるほど長電話だったり

少なくともここにいる三人の中では一番『女の子』だと思う

「ところで、見てくれた?」

「うん、面白かったよ…でも校庭に書くとは思わなかった」

「苦労したんだよ、朝練している部活もあるから…消えないところ探すの」

一週間の調査の結果、トラック内は朝練では使われていないことが分かった

そこで、今回の新聞は校庭にデカデカと掲載してみた

これならきっと教師にも怒られないはず…多分

「でも、内容が…あれただのポエムじゃない?」

「あれが私の結論よ、何か問題あって」

「問題はないけど」

「じゃあ、OK」

そんな会話をしているとお昼の放送が流れてきた

「こんにちはお昼の放送です、今日はまず最初に生徒の呼び出しを行います」

入学してからずっと思っているのだけれど、『お昼の放送』というのはどうだろうか

何か名前を付けようとか放送部は考えたことはないのだろうか

いや、それ以前にまず最初に呼び出しって…

「…2年A組、染井卯月さん、至急職員室までお越し下さい」

「…問題あったみたいね」

美咲がニヤニヤ笑っている

「…大丈夫?」

神奈ちんは自分が呼ばれたみたいに不安そうな顔をしている

「…アホだな」

遠くの方でぼそりと呟く幽霊部員

「聞こえてるから」

相変わらず発言に優しさが全く含まれていない

「じゃあ、ちょっと言ってくるね」

食べ終わってないお弁当を片付け私は職員室へと向かった

そのお弁当の残りが唯一の心残りだった


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