「そういえば、今誰も居ないの?」

「うん、今両親旅行いってるから」

って事は…この家(店だけど)は二人きりか…

「じゃあ、なんでさっき誰かいるか聞いたんだ?いるわけないじゃん」

「ん〜とりあえず、聞いといた方が良いかなって思って」

「何だそりゃ…じゃあ山倉がずっと店番してるわけ?」

「そうなのよ…ってそうそう、だから今バイト募集してるのよ」

そう言いながら店に張ってあったA4くらいの紙をはがしてきた

「お前、そういうのは店の外に貼れよ」

「え?外に貼ったら風で飛んじゃうでしょ?」

「…本末転倒って言葉知ってるか?」

「まぁ、それよりも…どうせ暇でしょ?やってみない?」

どうせ、という言葉に引っかかるものを感じたが…どうせ暇か

「でも、アレだろ?俺、中学生だからバイト駄目じゃん」

「そんなことはどーでもいいよ、バイトって言っても手伝いみたいなものだし…あ、もちろん給与ははずむわよ」

「ん…つっても今年俺ら受験生じゃん?やっぱり勉強しないと…」

「大丈夫、大丈夫!そうだ、勉強一緒にやってあげるから…どう?」

何でコイツはこうまでして俺を誘うのだろうか?

別にクラスでも仲が良いわけでもないし…むしろ、こんなに会話したのは今日が初めての気もするし…

まぁ、その辺は置いといて…あぁは言ったけど俺が熱心に勉強するとも限らないなし…別に良いか

「んー、別に良いよ、どーせ暇だし」

「やっぱり暇だったんだ…良かった」

やっぱりという言葉が少し耳に残った


「で、何?早速やるの?」

気付くと俺はレジの中に入れられていた

「しょうがないじゃない、人手が足りないんだから」

「でも、あれじゃない?研修というか…説明が必要じゃないのかな?」

「大丈夫、そんな難しいものじゃないから…はい、エプロン」

仕方なく俺はそれを受け取った

「で、何すれば良いの?」

「とりあえず、ここで突っ立てれば良いよ、お客さんが来たらよんで」

えらく適当だったけが他に自分が何かできるとは思わなかった


一時間ほど経ったが客は誰も来なかった

「暇だな…ある意味辛いな、コレ」

一応仕事なので必死にあくびを噛み殺しているとドアが開けられた

「いらっしゃいませ…?」

初めてのことなので少々戸惑ったが、多分ここで使われるであろう言葉を使ってみた

「あれ…夕は?つーか、誰だお前?」

入ってきたのはこの田舎には似つかわしくない金髪の兄ちゃんだった

「えっと…夕さんは奥にいると思いますけど?」

「あぁ、そう…で、君は?…ってバイトかなんかだよなぁ…悪い」

金髪の兄ちゃんは「アホか、俺…」とか言いながら店のジュースを勝手に飲み始めた

「あの?」

勝手に店のものに手をつける人間の対処法は俺のマニュアルには存在しなかった

「おーい、夕!」

ジュースを飲み干すと彼は店の奥に向かって声をかけた

少しの間の後、山倉が奥から出てきた

「あ、おかえりーって、また勝手に商品飲んでるし…計算が合わなくなるでしょ?」

「後で足しとけよ、おかん達はもう行ったのか?」

会話を聞けばとりあえず、この二人が兄弟なのは理解できた

「あ、これ私のお兄ちゃん…今は出ちゃってるんだけど」

山倉がわざわざ説明してくれた

「…」

その間「お兄ちゃん」はずっと俺を見ていた

「ども」

とりあえず、会釈してみる

「え〜と、村越君だっけ?店を手伝ってくれるってことだよね…よろしく!」

「いや、吉野です」

「そういえばまだ名前聞いてなかったよね、悪い悪い…インスピレーションで呼んじゃったよ、でも村雨で良いよね?」

もう、何でもいいや…


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