「というわけで、今後の段取りです」

山倉がなにやら表のようなものを作ってきた

今、俺達は店の置くの山倉家の居間に居る

つまり、店には誰も居ないことになるが良いのだろうか?

別にここなら店から声をかければ聞こえないこともないが…

「営業時間が十時から夜の七時までなので三人が二人ずつ入る3パターンに分けます。」

「ってことは一日六時間…それに毎日だろ?」

「毎日って言っても一週間だけだよ、後は親が帰ってくるから大丈夫」

「あぁ、そうか」

そういえば、俺はあくまで臨時ということだった

「じゃあ、今日の残りは二人でやってくれ…俺は寝る」

そういってお兄さんはとっとと上へ行ってしまった

「んもう…まっいいや、吉野君には早く仕事できるようになって欲しいし」

こうして俺の仕事が再び始まった

といっても仕事といっていいものか…ただ突っ立てるだけだし

「なぁ、客が全然来ないんだけど、大丈夫か?」

当然の疑問が浮かんだので山倉に聞いてみる

「大丈夫よ…今の時間はこんなもんだし、何故か人が来る時間帯って決まってるのよね〜」

そう言いながら彼女は店の奥、つまり居間で何か作業をしていた

「お前は何やってんだ?」

コレも訊いてみる

「数学の宿題」

返ってきた答えは店の営業とは何の接点もないものだった

「なぁ…二人一組じゅないのか?」

「二人一組よ…後で写させてあげるから」

学校での山倉の成績は…悪くなかったはずだ

「頑張れ!」

「応援は良いから、しっかり店番してね」


「あ…えっと、いらっしゃいませ〜」

約三十分後、(俺の中で)初めての客がやってきた

「あれ?吉野君?」

入ってきたのは同級生の川入だった

「あぁ…」

思わず微妙な反応をしてしまった

「あ!瑞希、速く〜」

「夕、ごめんね?ちょっと遅くなっちゃた」

そう言いながら店の奥…山倉家の方へ入っていった

…ここの家は他に入り口がないのか?

「えっと…早速なんだけど、ここが分からないの」

「2番?ここは…多分、ここに補助線を引いて…」

あいつ、元から宿題も仕事もする気ないだろ…


「いらっしゃいませー!」

それから数分後、(本当の)初めての客がやってきた

中年のおばちゃんだ…うん、初めての客にしては悪くはない

「コレね」

おばちゃんはカゴにペットボトルやらおかしを大量に入れて持ってきた

「はい」

えっと、とりあえず…どうすれば良いんだ?レジの打ち方とか知らないし

「…少々お待ち下さい」

そう断って、俺は店の奥へと向かった

「おい!山倉、客が来たんだが…どうすれば良い?」

「仕事してよ、挨拶してレジ打てば良いでしょ?」

「だから、レジはどーやって打つんだよ」

「知らないであそこにいたの?」

「それが俺の仕事だからな」

「…レジ打ちは?」

少々あきれているようだった

「お前の仕事…教えてくれるのなら、俺の仕事に加えておく」

「はいはい…じゃあ、後でね…瑞希の相手してて」

最後は完全にあきれていた

「…」

山倉は店へと戻り、居間には俺と川入の二人だけが残った

相手をしててと言われても…彼女とは全くと言っていいほど会話をしたことがない

そして、俺も…恐らくは彼女も自分から話すタイプではないので二人の間には当然ながら沈黙が続いた

「…吉野君、えっと…バイト?」

ようやく会話が発生した

「あぁ、うん…一週間だけ手伝いを…さっき決められたんだけど」

「へぇ、そうなんだ…」

―終了

彼女も宿題をやっていればいいものの、律儀な性格なのか、こちらの反応をうかがっている

まずい、何か言わないと…え〜と

「もぅ、何で人が変わると…あ!そうか〜私が店に居ればお客さんも増えるよねー」

山倉がわけの分からない事を言いながら帰ってきた

「はい、じゃあ吉野は店に戻ってくれる?私は宿題やるから」

「構わないけど…また、客がきたら?」

当たり前の事を訊く

「レジ打って」

当然の返事が帰ってきた

「…どうやって?」

「もう、適当にやればできるから」

適当って…そんなんで良いのか?


戻る ホーム 目次 次へ