「…」

エンディングに入り、ぞろぞろと客が退場し始める館内

そんな中、瞳に涙を溜めたまま微動だにしない川入

俺達はくじの結果「ラブロマンス」を見ることになった

タイトルは良く分からないので覚えていない、拓曰く仏語らしいけど

内容は様々な理由で結ばれることが叶わない男女二人が良く分からないけど最終的には二人になれた…と思ったら片方が病気になるというもの

細かいところは覚えていない…途中、夢の中でロマン飛行してたし

多分「B級ラブロマン」と呼ばれるものなんだろうな、これ

でも、この「Bラブ(仮)」が川入はいたく気に入ったようで次の客が入ってくるまで泣いていた


「…どうしたの、瑞希」

先に出てきていた山倉は川入を見るなり目を見開いた…

「…すごく、良くて…悲しくて、ぅぅ」

相変わらずの様子で川入は良く分からない感想を漏らした

「そんなに良かったのか?」

拓が川入ではなく、俺の方を見て訊いてきた

「…それよりも、そっちはどうだったんだ?」

泣くほど感動している川入を前にして「つまらん」とは言えないので話を振った

「おぉ、意外に面白かったぞ…なぁ、山倉」

「え、何」

突然、自分に話を振られたからだろうか、山倉は驚いた様子で振り向いた

「結構、面白かったよな映画」

拓が改めて訊いた

「う、うん…今時のアニメって凄いよね、CGとかこれでもかって使ってて…お金もかかってるんだろうね」

正直、最後の感想は視聴者にはどうでも良い

「そうだな…でも、低コストになったからアニメでも使ってるんじゃないか」

そのどうでも良い部分に何故か食いつく拓

「あ、そうか…やっぱり頭良いね神野君」

そうして笑いあってる二人を見てみるとアニメは中々面白かったらしい

「…」

「…もう大丈夫か、川入?」

涙は止まったものの目は赤いままの彼女はじっと二人の方を見つめていた

「はい…」

顔を洗ってきたのか涙の跡は残っていなかった

だけど、心なしか悲しそうに見えたのは先ほどまで見ていた映画のせいだろうか…


時計を見ると6時を少し過ぎたころ

それでも、あたりが明るいのは夏だからだろう

あの後、映画を見終わった俺達は昼食をとって適当に街をブラついた

本屋で川入は今日見た映画の文庫を買っていた、かなり気に入ったようだ

拓はゲーセンで見事なクレーンさばきを披露して、ゲットしたマスコットを川入と山倉にあげていた

そして、最後に雑貨屋をひやかした後、バスに乗ったのが30分前

あと20分もすれば、家に着くだろう

行きは騒がしくしいたのに帰りは静かだった

それも当然で、俺以外の三人は疲れているのか寝ていた

車窓から外を見る…一面畑のいつもの風景

「いつかは、出て行くんだよな…俺」

そう言えば、夏休み明けに進路希望調査票を出さなくてはいけない

当然、進路が決まっていない俺は白紙のままだ

「どうしよっかなー」

今考えても仕方がないと思い、視線を車内に戻した

三人は相変わらず寝ていた


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