久々の登校でざわつく教室の中、俺は一人の少女の横顔を眺めていた

周りには黒くなったり、髪型が変わっていたりする連中もいたが

彼女に関しては最後の記憶が新しいのもあるが特に変わった様子はない

それでも、意識しているからだろうか何かが違うような印象もうける

表情が今までと違うというか、思いつめているというか…

そんな風に見ていると、突然彼女と目が合ってしまった

俺は咄嗟にそれでもなるべく自然に視線をずらした

そして、ゆっくりと視線を戻すと彼女が立ち上がりこちらへと向かってくる

やはりその表情はどこか深刻な顔だった

もしかして…

もしかして、俺に今日、告白をするのかもしれない

だから、あんな顔をしているのかもしれない

今、一瞬目があったから決意が固まったのかもしれない

そうしたら、俺はなんと答えるべきなんだろう…

それ以前に彼女は何と声をかけてくるだろうか

ゆっくりと彼女が俺の席に近づいてくる

近づいてきて…通り過ぎ、そして俺ではない人物に声をかけた

「あの、神野君…」


放課後の体育館裏

呼び出すにはベタと言えばベタだが…最適だからこそきっとベタなのだろう

確かにこの場所は人目につかないし、周りからも良く見えない

でも、実際はその分周りも良く見えないのだ

だから、こうして影から覗いていてもばれることはまず、ない

そう思って体育館裏近くの林の中に入ると先客がいた

「…あ」

向こうも誰か人が来るとは思っていなかったのだろう

お互い、どう反応をとっていいか分からなかった

「どうして…」

先にいた川入がそう呟いた

「いや…そっちこそ」

俺がここに来たのはHRの前に山倉と拓が話をしていたのが聞こえていたから

いや、実際には盗み聞きと俗に言われる行為かもしれないけれど

とにかく、放課後この場所で山倉が拓に何か話しがあると言っていた

拓はここで言えないのかと尋ねていたが、山倉は言えないとも言っていた

「えっと、私は…」

「あ、静かに」

誰か人が来るのが見えた

俺は川入が隠れていた比較的大きな木の裏へと隠れた

先にやってきたのは山倉だった

落ち着かないのか辺りをうろつきながらやたら周囲を気にしていた

だが、何かを探そうという明確な意思があるわけでもないので見つかる事はないだろう

そして、山倉が三周りほどしたころ、拓がやってきた

山倉がうつむきながら何か口を動かしているがこちらからでは聞こえない

横の川入を見たが、彼女も聞こえてはいないようだった

山倉はうつむいたまま、両手を握りしめていた

今度は拓が何かを言っているのが見えた、もちろん内容は分からない

分からないが、川入はその様子を瞬きもせずじっと見つめていた

読唇術でもできるのだろうか…そんな風に考えていると、突然川入の瞳から涙が流れ始めた

視線を二人に戻すと…山倉も泣いていた、拓に肩を抱かれて

そして、二人は寄り添いながら体育館を後にしていった

結果、そこには俺と川入だけが残っていた

川入は二人がいなくなっても同じ所を見つめ続けていた、流れる涙も拭おうとせず

「…行こうか」

無言で立ち去った方が良かったかもしれないが、俺は一言声をかけた

それは正解だったのか、川入も無言で頷いてくれた


戻る ホーム 目次 次へ